2006年05月20日

コメディノロジーとともにバーボンを!

コメディノロジーの基本に「観察」と「分析」がある。
どんなものを見たり触ったり味わったりしても、
その感覚を鵜呑みにしているようでは、コメディの醍醐味を味わえない。
まずは、対象となるものを観察してみる。
表面に浮かんだ手がかりを眺めるところから、
さらに深く突っ込んで、その背景・歴史・組成構造を解き明かす=分析してみる。
そして、その対象と世界との様々な関わりを想像してみる。

唐突ですが、例えば、バーボンという酒。
コメディの極意が、もてなしのベースとしてあるコメディ・バーでは、
こんな会話が湧き起こるかもしれません。




客A「この店、コメディ・バーなんですよね‥‥」
店主「そうですが」
客A「なにもはじまりませんね?」
店主「なにも、とは?」
客A「いや、その、コメディですよ‥‥
   そこのTVでお笑い番組流すとか、なにか、ないんですか?」
店主「そこのTVで? いや、それはTVじゃないんです。
    DVD・ビデオ再生用のモニターです。
    TV番組は映しませんから。だから、TVじゃありません。
    まあ、もっとも、閉店後の休憩時間に、ディスカバリー・チャンネルかBBCなら、
    たまにちらりと見ることはありますけどね」
客A「じゃあ、そのモニターで、なにか面白いもの流してもらえませんか?
   そのぉ、コメディを‥‥」
店主「あいにく、本日は、良いのが入っておりませんので」
客A「じゃあ、どこにコメディがあるんですか?」
店主「本日のコメディは、お客さまのお飲みになっているグラスの中に」
客A「うん? このバーボンに?」
店主「ええ、そのバーボン。かなりのコメディです」
客A「まさか」
店主「お客さまは、バーボンの成り立ちをご存知ですか?」
客A「バーボンは、トウモロコシを原料に作られるコーン・ウイスキーのことですよね。
   アメリカの国民的アルコール飲料で、初代大統領のジョージ・ワシントンは、
   自前のバーボン工場で製造して愛飲していたとか、南北戦争のグラント将軍や
   セオドア・ルーズベルト大統領とか、いろいろエピソードがありますよ」
店主「よく、ご存知ですね」
客A「でも、バーボンとコメディとは、つながらないですね」
店主「コメディといっても、ブラックな味わいのコメディかも知れませんね。
    お客さまは、ブラックな笑いの味わい、大丈夫ですか?」
客A「ええ、嫌いじゃないですよ、好きな方です」
店主「そうですか。
    バーボンって飲物の語源には、実は、戦争の影が投影されているんです」
客A「戦争の影?」
店主「ええ、アメリカの東部13州がイギリスと戦ったアメリカ独立戦争です。
    植民地だった当時のアメリカは、言ってみれば弱い存在でした。
    イギリスも、初めは簡単に制圧できると思っていた節がある。
    しかし、そんなアメリカを応援した大勢力があったんです」
客A「へぇ、ネイティブ・アメリカンとか?」
店主「まさか、彼らは、白人にとっては、イギリス人もニューイングランドの人間も同じですよ。
   植民地の13州を応援したのは、フランスです」
客A「フランスですか?」
店主「ええ、当時のフランスは、ヨーロッパでイギリスと覇権争いをしていましたからね。
    アメリカの独立を応援して、イギリスの権益を削ごうと考えていたんです」
客A「なるほど、独立100周年を祝って、フランスから自由の女神が贈られたのは、
   そんなことを踏まえてなんですね」
店主「その通りです。で、当時、実は、フランスも北米に植民地を持っていました」
客A「そうなんですか?」
店主「カナダの東部ケベック地方とルイジアナです」
客A「なるほど。それで、ワシントンを応援したくなったわけですね」
店主「バーボンの話に戻りますが、それで、フランスの応援もあって独立を達成した
   アメリカの人々は、アメリカ産のウイスキーの名前を変えようと考えたんです。
   だって、ウイスキーは、イギリスの一部であるスコットランドのものですからね」
客A「気持ちはわからなくないですね」
店主「フランスに恩を感じた当時のアメリカ人は、それで、自分たちのウイスキーのことを
   当時のフランスの王朝名ブルボン=bourbon と名づけたんです。
   フランス語のブルボンが、英語読みになってバーボン。
  その二語は、まったく同じなんですよ」
客A「う〜ん。深いですね。まったく。そんな歴史があったんですね」
店主「ええ、それともう一つ面白いのは、さきほどネイティブ・アメリカンの話が出ましたけど、
   バーボンとネイティブ・アメリカンの関係性は切っても切れないんです」
客A「白人が幻の製法を教わったとか?」
店主「いえいえ、そんな平和な話じゃなくて、白人たちは、自分たちの領土を拡大する際に、
   ネイティブ・アメリカンたちから土地を買うという手段を取ったのですが、
   購入と譲渡の交渉をする際に、彼らにバーボンを飲ませて、ベロベロに酔わせてから、
  とんでもない安い値段での購入にオーケーさせる書類にサインさせたんです」
客A「そんなヒドいことしたんですか?」
店主「常套手段だったそうですね。あのマンハッタン島は、いまの貨幣価値にして
   23ドルほどで白人が買い取ったそうですよ」
客A「たったの2〜3千円じゃないですか!」
店主「中国侵略の際にイギリスが使ったアヘンといい、アメリカのバーボンといい、
   アングロサクソンによる他民族や多文化の侵略史には、よくあるパターンですね」
客A「そういえば、そうかもしれない。でも、日本は、第二次大戦後に、同じ方法を
   GHQに使われて文化をボロボロにされないで、良かったですね」
店主「‥‥‥アメリカ型のTVと消費文明のイメージは、アヘンじゃないんですか?」
客A「そ、それはそうだ」
店主「それでも、バーボンは、味わい深く香り高くて美味いんですよね」
客A「エヴァン・ウイリアムズの23年。もう一杯」
店主「コメディですね」
客A「ええ。コメディです」
店主「ブラックでしょ?」
客A「ブラックですね」

【バーボンの 業の深さも 旨味かな】 (季語なし)


by 須田泰成 公式サイト

By Yasunari Suda:2006年05月20日 15:12

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須田泰成/コメディノロジー研究室・代表+コメディ・ライター&プロデューサー。

現代を生きるには、現実をコメディとして認識する能力が欠かせないという信念から、 コメディノロジー=comedynology を発想+その体系化をライフワークとする活動開始。 並行して、コメディ製作会社(有)大日本生ゲノムを率い、各種コンテンツ製作、 コメディ・スクール&バー経営などに励む。 CGギャグ番組『Yellow Subliminal』が、「モンティ・パイソン」や「Mr.BEAN」を 有名にしたスイスのコンペROSE D'OR の2005 Social Awareness Award にノミネート。 著書に『モンティ・パイソン大全』(洋泉社)など。コメディ脚本・映像など多数。詳しくは、大日本生ゲノム公式ホームページ須田泰成・公式サイトにて公開中。コメディとコミュニティをテーマにしたネット放送経堂にも後先よく考えずに着手。