2006年05月26日

本当は恐ろしいサウスパーク(編集中)

昨日に続いて恐怖と笑いの関係について書きます。
あの世界的大ヒットとなったコメディー・アニメ「サウスパーク」にも、
濃厚な恐怖が仕掛けられています。
博報堂の『広告』誌上にて発表した文章に手を加えてみます。(編集中)



まずは、サウスパークの概要から。

 ……コロラド州の田舎町サウスパークを舞台に舞台に繰り広げられる
チョー過激なX指定の成人向けコメディー・アニメ。
主人公の4人組スタン・カートマン・カイル・ケニーは、
揃いも揃ってマトモじゃない男子小学生。
スタンはガールフレンドと喋ると決まってゲロを吐く。
カートマンは自分の思い通りにならないと誰にでも罵倒の限りを尽くす
自己中な百貫デブ。
ユダヤ人のカイルは喋るウンチ〈Mr.ハンキー〉の存在を信じている。
町一番の貧乏一家に生まれたケニーは毎回必ず殺される。
そんな4人が遭遇する事件は、毎度毎度、トンでもないことばっかりで、
「エリックが宇宙人に手術され身体に受信機を埋め込まれたり」
「スタンのクローンが町中を破壊したり」
「近くの火山が噴火して町がマグマに飲み込まれそうになったり」などなど。
タブー破りも相当スゴク、イエス・キリスト、アメリカの国民的有名人、
クローン人間などを容赦なくギャグにしてしまい、
果ては、象と豚のセックスによって豚サイズのベビー象が登場してしまう。
ぶっ飛んだことが書かれていますが、決して誇張ではありません。
内容とは裏腹な愛くるしい少年キャラの口からは四文字言葉や差別語などなどが
マシンガンのように乱れ飛び、
大自然に隣接した美しい風景をバックに殺人・スカトロ・猥褻などの
モラルも何もあったもんじゃないシーンが次から次へ繰り広げられるのですから。
それにしても、このようなコメディーがどうして世界的なヒットとなったのでしょうか? 
ミーハーな気持ちを脇に置いて「サウスパーク」の目まぐるしい画面を見直してみると、
世紀末の映画を“つかむ”秘密が見えてくるかもしれません。

「サウスパーク」に投影される「アメリカの不安と悪夢」
 
 一つのコメディの本質を知るために最良の方法は、
同じ作品を繰り返し見ることです。
「サウスパーク」を何度も繰り返し見ていると、
段々、初めは爆笑していたギャグにも飽き始め、
登場キャラクターたちのエキセントリックさにも慣れてきます。
そして、見落としていたサブリミナルな情報に気づきはじめる頃に
浮き彫りになってくるのは、
「サウスパーク」が限りなくホラーに近い「本当は恐ろしい」別の顔を持っているということです。
 アメリカで大ヒットを記録してきたホラー映画は、
たとえば14歳の少女が悪魔に取り憑かれてしまう「エクソシスト」が
多くの少年・少女が既成の伝統的な価値観に反逆する
カウンターカルチャーに取り憑かれていった1969年を象徴しているように、
それぞれの時代のアメリカの不安や悪夢をを投影する鏡であると言われてきましたが、
「サウスパーク」にも、
ヘルシーな世界のリーダーであり好景気よ永遠にムードに支配される、
アメリカの隠れた不安や悪夢が投影されています。
たとえば、「ピンクアイ」というエピソードの粗筋をノリを排して淡々と記してみましょう。
アメリカとロシアが協力して運営していたミール宇宙基地が、サウスパークに墜落。
その下敷きになって死んだケニーは死体安置所に運ばれますが、
たまたま使っていた防腐剤が、
死人をゾンビに変身させてしまう成分の含まれたウスタ−・ソースだったため、
ゾンビになってしまいます。
ゾンビになったケニーに噛まれた人々もゾンビとなり、
ゾンビを増殖させ、町中がゾンビだらけに。
追いつめられた3人の少年たちは、電動ノコギリを振り回してゾンビたちの首を斬って対抗。
そして最後には、ソース・メーカーのアドバイスを実地して町を元に戻すのです。
どうでしょうか、これをホラーと言わずして何をホラーというでしょう? 
さらにストーリーを要約すると
「食品に含まれる化学物質が原因で怪異現象が起きた」となりますが、
これは実に、
アメリカのような高度消費社会に生活する人間にとって他人事とは思えない
身近な「不安と悪夢」を象徴するようなもので、
この〈不安と悪夢〉が多くの人々を“つかむ”鍵となっているのです。
ちょっと乱暴なたとえを用いると、
昨年の日本で、あの『買ってはいけない』が
不安にかられた消費者を“つかんだ”ように、です。
(「サウスパーク」には前述のような基本メッセージ以外に、
さらに至る所に「不安と悪夢」を喚起するトッピングがなされていますが、
それらについては欄外の注を参照のこと)

「サウスパーク」を支えるキャラ徳&キャラ柄
 前述してきたような本当に恐ろしいない内容にも関わらず、
なぜ「サウスパーク」は。笑いの領域に踏み留まっていられるのでしょうか?
 もともと笑いと恐怖は紙一重の感情であるため、
コメディーに不安や悪夢といった要素が混ぜられていることは少なくありません。
むしろ恐怖の要素が強いほどギャグの爆発力が高まるくらいで、
「アダムスファミリー」とか「裸の十字架を持つ男」などを見れば一目瞭然でしょう。
 ただ、恐怖を笑いに転換させるためには、前提条件として、
観客にとってスクリーンやTV画面上の「恐怖が他人事である」という方向性に
誘導する必要があります。
人間は、恐怖の接近によって高まった感情を他人事とは思えずに受け入れると恐れおののき、他人事と思って受け入れずに吐き捨てると笑いが込み上げるのです。ということは、スクリーン画面上の「恐怖を他人事と思わせない」作品をホラーと呼び、逆にスクリーンやTV画面上の「恐怖を他人事と思わせる」作品をコメディーというと定義づけることも可能です。
 「サウスパーク」において、画面上の「恐怖が観客にとって他人事で」であるのは、
キャラが持つ特に三つの要素によります。
一つ目は、あのキャラの平面性。
二つ目は、二頭身の体系。
三つ目は、オトナになる前の子供であること。
これら三つの要素を持つ主人公キャラたちは、
コロラド州の田舎町サウスパークとは、根本的にズレた存在なのです。
なぜならサウスパークとは、
アメリカという歴史の浅い世界覇権国家の不安と悪夢が凝縮された場所であるのですが、
その恐ろしい面は、〈奥行き(内面)のある・六頭身以上の・オトナの人間〉が
近代において作り上げてきたものだからです。
故に4人の主人公キャラは周囲の行動に巻き込まれはしても基本的には他人事だし、
観客も主人公キャラに感情移入しながら見ていると
アメリカの不安や悪夢に“つかまれながら”も
他人事として笑い飛ばすことができる(客観視できる)というわ訳なのです。
サウスパークの主人公キャラたちのミラクルな効果を実感するには、
実際の人間の俳優、
しかも名優を起用した「サウスパーク」をイメージしてみるとよいでしょう。
 少年たちが電動ノコギリを振り回してゾンビの首をチョン斬る『ピンクアイ』や
凶暴化した七面鳥の群れが人間を襲う『腹ぺこマーヴィン』のワン・シーン
(まさにヒッチコックの『鳥』ですが)、
『象と豚がファック中で四つ尻のある猿を作ってしまうマッド・サイエンティストなどなど。
たとえセリフが同じだとしても、
(なおのこと?)名優が演じていればホラーと呼ぶべき代物にしか見えないでしょう。
 「サウスパーク」の登場と大ヒットは、
アメリカのコメディ史の中では特筆すべき事件です。
約の少ないケーブルTVからスタートしたという事情もありますが、
約30年前にイギリスのBBCで放送された「モンティ・パイソン」が、
本当は血にまみれて恐ろしかった旧き良き大英帝国の幻想を木っ端微塵にしたように、
ファンの一般ピープルとともに
「本当は恐ろしいアメリカ」を相当なレベルで笑うことに成功したからです。
その成功の重要な要素にキャラがありました。
本当ならホラーにしかならない状況を主人公のキャラたちは、
「特に努力もせず」「存在しているだけ」で、
女子高生にカワイイと叫ばれるような作品世界を完成させたのですから。
人間の社会でも、これほど極端ではありませんが、近いことはあります。
特に努力もしていないのに、
いるだけで何となく周囲の状況を好転させてしまうような人物がいるでしょう。
こういった人物は、
俗に「人柄の良い人」だとか「人徳のある人」なんて言われてきましたが、
これをキャラの世界に置き換えて
「キャラ柄の良いキャラ」だとか「キャラ徳のあるキャラ」なんて言えるとしたら、
それはまさしく「サウスパーク」のスタン、カートマン、カイル、ケニーのことでしょう。
(しかし、「人柄・人徳」と「キャラ柄・キャラ徳」は全く別物。
 後者は内面の深みをチラツカセナイ潔さがある)と言うことは、
 「サウスパーク」をホラーではなくコメディーたらしめているのは、
 主人公たちの「キャラ柄」もしくは「キャラ徳」のおかげということになるのです。

By Yasunari Suda:2006年05月26日 18:31

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.yasunarisuda.com/cgi-bin/mt/mt-tb.cgi/75

コメント




ログイン情報を記憶しますか?

(スタイル用のHTMLタグが使えます)

          1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

須田泰成/コメディノロジー研究室・代表+コメディ・ライター&プロデューサー。

現代を生きるには、現実をコメディとして認識する能力が欠かせないという信念から、 コメディノロジー=comedynology を発想+その体系化をライフワークとする活動開始。 並行して、コメディ製作会社(有)大日本生ゲノムを率い、各種コンテンツ製作、 コメディ・スクール&バー経営などに励む。 CGギャグ番組『Yellow Subliminal』が、「モンティ・パイソン」や「Mr.BEAN」を 有名にしたスイスのコンペROSE D'OR の2005 Social Awareness Award にノミネート。 著書に『モンティ・パイソン大全』(洋泉社)など。コメディ脚本・映像など多数。詳しくは、大日本生ゲノム公式ホームページ須田泰成・公式サイトにて公開中。コメディとコミュニティをテーマにしたネット放送経堂にも後先よく考えずに着手。