2006年05月27日

ドイツ人のバカ笑いとコメディ・ウイルス

『ドイツ人のバカ笑い〜ジョークでたどる現代史〜』(集英社新書)という本に
実に面白いことが書かれてあった。
この本は、第二次世界大戦が終了した
1945年から1999年までの半世紀余りにわたって
ドイツで語られたジョークを3人のジョークの達人たちが集めたもの。
当然、どのジョークも世相をビビッドに反映する歴史の生きた証拠である。
とはいえ、集められているジョーク自体は、
これまでに読んできたジョーク本と比べて特に新鮮ということもない。
しかし、本の中に相当ガツンとくるコメディノロジー的事実が書かれていた。
それは、
一九四七、八年頃、ベルリンの西側占領地域では新種のジョークが出まわりはじめた。
そして、そのジョークの内容は、
ナンセンスな味わいで、イギリスないしはアメリカに起源を持つものであったという。
それらは、
ホリデーで一時帰国した占領軍兵士が故国で流行っているのを仕入れて、
西ドイツに持ち込んだジョークの系統だったという。



これは、つまり、戦争による兵隊の行き来にくっついて、
まるでウイルスのようにジョークが移動したということを意味する。
同書には、若い英米軍兵士が、
ドイツの若い娘の尻を追っかけ回すジョークが多く紹介されているが、
おそらく、若い英米軍兵士は、若い娘の関心を引くため、
駐留軍生活の娯楽のためにジョークを披露しあったのだろう。
そして、そのジョークが生み出した笑い声がドイツの空に響き渡り、
いつしか土地のジョークとして根付いていったと推測する。
戦争がきっかけとなって笑いが異文化に伝搬されるなんて、
非常に興味深い話である。
昔、歴史の授業で、
8世紀の唐とイスラム帝国の戦いをきっかけに
中国からイスラム世界に紙の製法が伝わり、それがさらには西欧に伝わり、
グーテンベルグの印刷術の発明に結びついたと習った記憶があるが、
ジョークもまた国境を越えて、
直接なんのつながりもない異国の人を笑わせてきたのだ。
ここまで書いてきて一つ思い出した話がある。
中国のジョークと戦争の関係性である。
中国でジョークが発達したのは、実は、紀元前の春秋戦国時代のこと。
当時、全国制覇を狙う野心ギラギラの諸侯たちが大勢いたわけだが、
同時に彼らに策を説いて重用してもらおうと目論む遊説家たちも大勢いた。
話をして気に入られたら、
場合によっては、いきなり宰相に大抜擢!ということもあったというから、
みんな必死で気の荒い諸侯たちの気に入るように熱く語ったことは想像に難くない。
そして、そこで用いられたのが、笑いだったという。
いきなりお固い政策や戦術を論じるよりも、
まずはジョークで恐れ多い雰囲気を解きほぐし、
戦国の世を生きる諸侯の猜疑心に富んだ
鋭い目付きと固まったばかりのマグマのような表情を
ナイス&ウェルカムなスマイルにして、
それから、適量&適時の笑いとともに、
じわりと自分を売り込むという高等テクニックが遊説家業界では試みられたのだ。
遊説家たちは、戦国の世を旅しながら、
もともと巷で語られていたジョークを拾い集め、書物に記し、諸国で語り、
ジョークを元々の産地から遠く離れた場所に植え付けた。
そのようにして残された、たとえば有名な韓非子の『戦国策』などは、
実は笑い話でいっぱい。
後に日本に渡り、江戸小咄、さらには落語に影響を与えたものもあるというから、
戦争と笑いの関係は、なんとも奥が深い。


by 須田泰成  公式サイト

By Yasunari Suda:2006年05月27日 15:23

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須田泰成/コメディノロジー研究室・代表+コメディ・ライター&プロデューサー。

現代を生きるには、現実をコメディとして認識する能力が欠かせないという信念から、 コメディノロジー=comedynology を発想+その体系化をライフワークとする活動開始。 並行して、コメディ製作会社(有)大日本生ゲノムを率い、各種コンテンツ製作、 コメディ・スクール&バー経営などに励む。 CGギャグ番組『Yellow Subliminal』が、「モンティ・パイソン」や「Mr.BEAN」を 有名にしたスイスのコンペROSE D'OR の2005 Social Awareness Award にノミネート。 著書に『モンティ・パイソン大全』(洋泉社)など。コメディ脚本・映像など多数。詳しくは、大日本生ゲノム公式ホームページ須田泰成・公式サイトにて公開中。コメディとコミュニティをテーマにしたネット放送経堂にも後先よく考えずに着手。